「うか」82号  トップページへ
     点字から識字までの距離(78)
             盲学校・ろう学校生のインターンシップ(2)

                           山内 薫(墨田区立あずま図書館)
 8月2日の2日目は、1日緑図書館でインターンシップを行った。緑図書館では毎月第1木曜日に午前中は「小さい子どものためのおはなし会」、午後は特別養護老人ホーム「清風園」での出張貸出と催し物があるので、インターンシップの他、大学で司書資格を取得するための実習生や国立国会図書館員の実習、日本図書館協会の障害者サービス担当者講座の実習などが第1木曜日にあたるときには、出来るだけこの緑図書館の行事に参加してもらうようにしている。1日で乳幼児へのサービスと高齢者施設でのサービスの現場を体験できるので、実習生にとってはとても良い経験が出来る。
 午前中の「小さい子どものためのおはなし会」には0歳から2歳くらいの乳幼児がお母さんと一緒に大勢参加してくれ、時にはまだ首の据わらない1ヶ月や2ヶ月の赤ちゃんも来場する。以前もこの連載で書いたことがあるが、乳幼児のおはなし会では音楽が決定的な役割を果たす。まだ言葉が分からない赤ちゃんにとって絵本やお話しを読む大人の声をお母さんの膝の上や座布団の上で聞くことは、言葉ではなく音を聞いていることだが、そこにちょっとしたメロディーが加わると赤ちゃんの反応が俄然違ってくる。お話しの中で話し手が「ふふふーん」等とちょっとしたメロディーを口ずさむと、赤ちゃんはそちらの方に顔を向けるのだ。従ってこのおはなし会では音楽が不可欠であり、極力歌や音楽をおはなし会の中に組み込むようにしている。今回のお話会でも何曲か歌を歌う他に人形を使ったパフォーマンスがプログラムに組まれており、キーボードによる演奏が予定されていた。Kさんと担当の先生と打合せをした時にKさんがキーボードを弾けると聞いていたので、この日に演奏する曲のいくつかをKさんに弾いてもらうことにした。又午後の清風園でも紙芝居や絵本の後必ず2曲歌を歌うことになっているので、こちらの方も事前に曲を伝えて演奏してもらうことにした。
キーボード奏者Tさんと
キーボード奏者Tさんと

 午前中の予定表は次の通り。
8時半  緑図書館に出勤
9時〜10時半「小さい子どものためのおはなし会」の準備と練習
 お話会ではキーボードを弾いていただきます。曲は「おばけなんてないさ」と『おはなしのろうそく 5』東京子ども図書館編 東京子ども図書館 1976 に載っている短い詩「クマが山にのぼってった」に山内が主旋律を作るので、左手の伴奏を考えて、曲を弾いて下さい。
10時半〜11時「小さい子どものためのお話会」本番
11時〜12時 反省会と来月の計画
12時〜13時 昼休み
 実は「クマが山にのぼってった」は、「つくしんぼ」という「小さい子どものためのおはなし会」を毎月お手伝いいただいているお話しのグループから作曲を依頼されたものだったのだが、詩のコピーだけしかもらっていなかった。ところが後で、この詩が収載されている『おはなしのろうそく 5』の「話す人のために」というコメントに簡単な旋律が載っていることがわかった。しかし、どちらかと言えば詩の雰囲気を伝えているのは私の曲の方ではないかと思うので、これはこれで良かったかと思う。
クマの練習風景
クマの練習風景

 さて、お話会の開始は10時半だが、それまでに当日のプログラムの予行演習を行う。いつもキーボードを弾いて下さるTさんにKさんを紹介し、早速曲の練習を行った。「おばけなんてないさ」は、曲に併せて幽霊に見立てた白い布を2人が竹籤で吊って動かしながら歌う。机の上には黒い布を引きその上に厚紙で作って彩色したお墓や草むらが載せてある。「おばけなんてないさ、おばけなんてうそさ・・・」というこの曲は皆よく知っているので2回程の練習でOKとなった。
 次は「クマが山にのぼってった」だが、これも歌を歌うだけではなく、クマのぬいぐるみを使って行う。元の詩は第1連が「クマが山にのぼってった」を3回繰り返し、4フレーズ目に「そこでクマさん なにを見た?」、第2連が「クマはもひとつ山を見た」を3回繰り返し、4フレーズ目に「そこでクマさんなにをした?」、第3連は「くまはもひとつの山にのぼってった」を3回繰り返し、4フレーズ目がまた「そこでクマさん なにを見た?」、第4連は、「クマはもひとつ山を見た」を3回繰り返し、第4フレーズ目がまた「そこでクマさんなにをした?」となり、以下第3連に戻って、第3連、第4連と繰り返す。という単純な構成の詩である。3人の人が横に並びそれぞれ手を伸ばして結び、手の位置を谷間、頭のてっぺんを山の頂上に見立て、ぬいぐるみのクマを手から頭へ登らせる。そして又手の谷底に降り、再び隣の人の頭めがけて登って行く。という動作を歌を歌いながら繰り返していく。山役の1人には立教大学のSさんにも一役買ってもらった。練習の後Kさんには本番で使うクマのぬいぐるみを触って確認してもらった。
 10時半近くなると続々と観客が集まり始める。8月のお話し会は夏休みのためにいつもよりも大きい子供たちが沢山参加してくれる。この日も乳幼児に混じって保育園の年長さんや小学校の低学年の子どももちらほら見受けられた。
 お話し会は恒例の「いないいないばあ」で開幕、最初の出し物は人形とパネルを使った『ぐりとぐらのかいすいよく』(作:中川 李枝子、絵:山脇 百合子 福音館書店 1977) 、次に絵本を大きく描き直した『ふしぎなあおいばけつ』(作・絵:なりたまさこ、ポプラ社 2001)、そしていよいよ「クマが山にのぼってった」で3人の頭の山の頂上を2往復して終了。次が「おばけなんてないさ」で、歌詞を模造紙に大きな字で書き、みんなで一緒に歌えるようにして、演奏が始まった。白い布のオバケもユーモラスな動きで子供たちの目を集めていた。Kさんは間奏のところで少しミスをしたが大勢に影響はなく、観客の子供たちも楽しんでくれた。最後にもう1曲「うみ」を、これも模造紙に歌詞を書いてみんなで歌った。お話し会の最後はこれも恒例の「穴に落ちたねずみ」の歌をぬいぐるみを使って歌い終了。
 お話し会が終わった後の少しの時間を見て午後に清風園で弾く「憧れのハワイ航路」をTさんと一緒に練習した。結局この曲は2人の連弾で弾くことになった。
折り紙を分解
折り紙を分解

 お話し会の終了後は「つくしんぼ」の皆さんと緑図書館の職員とが来月のおはなし会のプログラムを決める話し合いがあり、そこにKさん、Sさんも参加した。Kさんの隣に座った「つくしんぼ」のGさんが、折り紙で折ってきた独楽を参加者に配ったのだが、Kさんがとても興味を示し、その折り紙を分解し始めた、隣のGさんはそれではと話し合いの間に独楽の折り方をKさんに伝授した。3枚の折り紙をそれぞれ折って組み合わせて作る複雑な折紙独楽の折り方をKさんは十数分で会得してしまったのだった。
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