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   点字から識字までの距離(74)
      墨田福祉作業所への出張貸出(1)

                         
山内薫(墨田区立あずま図書館)

 区内の福祉作業所への出張貸出は、1998年7月の「ふれあいセンター福祉作業所」での個人貸出にはじまり、その後、社会福祉法人が運営する「さんさんプラザ」が改築されたのを機に、2004年の9月から、そこでも月1回の個人貸出を行うようになり、現在に至っている。これらのサービスについては、以前この連載で「知的障害の方へのサービス」と題して、9回にわたってレポートさせていただいた。(「点字から識字までの距離」41〜49、2004年6月〜2005年12月)今年の1月から新たにもう一ヶ所の福祉作業所への出張貸出が始まったので、ご報告したい。
 墨田区内には在宅心身障害(児)者通所施設が19ヶ所あり、その内、知的障害者を対象とし、作業を伴う通所施設が6ヶ所ある。6ヶ所の内20人規模の作業所が3ヶ所、55〜60人規模の作業所が3ヶ所あり、「ふれあいセンター福祉作業所」と「さんさんプラザ」は後者に含まれる。60人規模の作業所の残りの一つは「墨田福祉作業所」といい、「ふれあいセンター」と同様、公設の福祉作業所である。20年近く前に、寺島図書館で一緒に仕事をしていた同僚がこの「墨田福祉作業所」に異動になり、作業の様子などを見学させてもらったことがある。図書館では「ふれあいセンター」「さんさんプラザ」での貸出が順調に実施されているので、福祉作業所でも2つの施設同様のサービスができないかと5年ほど前に打診したことがあった。しかし、その時には作業所の職員の反対があり、実現できなかった。おそらく自分たちの仕事がさらに増えるという不安から反対されたのだろうと推測される。
 昨年、「ふれあいセンター」の職員だった方が「墨田福祉作業所」の所長として転出したので、それまでの経緯をお話ししたところ、福祉作業所の職員に図っていただき、出張貸出実現に向けて大きく前進したのだった。その方は以前の職場である「ふれあいセンター」での盛況ぶりを日頃眼にしており、むしろ積極的に図書館の出張貸出サービスを望んでおられた。
 そこで、貸出を前提に見学させていただくことになり、あずま図書館の職員3名と、たまたまインターンシップで来ていた葛飾ろう学校の高校生の4人で、8月の暑いさなか福祉作業所見学に出かけていった。数種類の作業を行っている場を見せていただいているときに、図書館から来た人と紹介されると、すかさず「ハチ公の本を持ってきてほしい。」「ちびまる子ちゃんの本を持ってきてほしい。」と2人の方から声がかかった。

利用案内の説明
利用案内の説明
ろう学校生のデザインしたチラシ
ろう学校生のデザインしたチラシ

 「さんさんプラザ」でのサービス開始時と同様、事前に図書館の利用案内を行うことにし、その時に配布する案内チラシのデザインを葛飾ろう学校の高校生にお願いした。彼女はろう学校の専攻科デザイン系で学んでいるので、インターンシップの4日間の実習の課題としてチラシのデザインを考えてもらうことにした。できあがったチラシは「若い女性が魚を餌にして猫を釣り上げようとしている絵で、その猫が本の中から飛び出してくる。」という図案で、空いている部分に案内用の文章を貼り付けて作成した。
 この間、福祉作業所との話し合いで、貸出は毎月第2火曜日のお昼休みに、玄関のスペースに机を置き、資料を並べて行うことになった。本来なら9月の福祉作業所の利用者懇談会で、皆さんに図書館の利用案内を説明するはずであったが、図書館側と施設側のちょっとした行き違いがあったために、2ヶ月延びて11月の利用者懇談会で案内させていただくこととなった。
 当日、利用案内のチラシの他に、1月12日の第1回の貸出の時に、貸出を希望する方がすぐにその場で借りられるように、図書館のかしだし券を持っていない方は事前にかしだし券を作れるよう、次のような案内も作成し、併せて図書館の利用登録申込書も一緒に配った。12月10日に保護者会があり、父母にも説明をして欲しいと要望されていたので、その時までに利用申込書を持ってきていただくこととした。
「本やCDをかりる券(かしだし券)をつくる方へ
 ★本やCDをかりるにはかしだし券がいります。
 ★かしだし券はだれでも無料でつくれます。
 ★本やCDも無料でかりられます。
  次の質問に当てはまるときは、( )のなかに○を書いてください。
1、( )1月から図書館が持ってくる本やCDをかりたいので、かしだし券をつくりたい。
2、( )まえに図書館で本やCDをかりたことがあり、家にかしだし券を持っている。
3、( )まえにかしだし券をもっていたけれど、なくしてしまったので新しくつくりたい。
 かしだし券をつくりたい方は利用登録申込書を書いて12月10日の保護者会までにもってきてください。
 もってきてほしい 本やマンガやCDなどの希望がありましたら、下の四角のなかに書いてください。」(漢字には全てルビを振った)
 当日、午後3時に皆さんに食堂に集まっていただき、以上の3種類の用紙を配って利用案内を行った。「図書館を利用したことのある方」と質問したところ、5名の方が手を上げてくださった。先日ハチ公の本を持ってきてほしいと言われた方は、ビニールの袋の中に大事そうに入れた、図書館のかしだし券を持参して皆さんに見せて下さった。その「ハチ公」を希望された方のためにその日、絵本の『はちこう』(いしだたけお・え、くめげんいち・ぶん、金の星社)と『ハチ公ものがたり』(新藤兼人作、岩淵慶造絵、小学館)を持って行ったので、早速そのかしだし券の番号を控えて2冊の本をお渡しした。また、ドラゴンボールを希望された方も自宅にかしだし券を持っているということだったので、お名前と住所を伺って「ドラゴンボール」のマンガ3冊をお渡しした。
 図書館に帰って「ハチ公」を借りた方のかしだし券の番号を入力してみると、その番号は既に登録を抹消されている番号だった。つまり、以前図書館でかしだし券を作ったことがあるけれども、ここ5年以上その券を利用して資料を借りなかったということなのだった。ドラゴンボールを借りた方の場合も同様で既にその方も登録者の中に含まれていなかった。
 最終的に第1回の貸出日である1月12日までに貸出を希望する方と当日借りたいと申し出た方は3、4名いらしたが、その内、日常的に図書館を利用していて、かしだし券が有効だった方は1名しかいなかった。


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