「うか」063  トップページへ

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みどり学級での公開授業(4)

                         
山内薫(墨田区立あずま図書館)

教室の入口のパネル
 さて、いよいよ公開授業の当日、学校には全国から大勢の先生方が見学に来ていた。午後1時過ぎに学校に行くと受付名簿に大阪府枚方市などと書かれていたので、かなり遠くから公開授業を見に来た先生もいたようだ。校舎の正面玄関を入ってすぐ右側にあるみどり学級の入り口には、今回の公開授業の案内が2枚のパネルを使って大きく掲示されていた。パネルの上には「緑図書館 月に1度の読み語りを子供たちは楽しみにしています。」と大きく書かれ、その下に3人の緑図書館職員の写真が貼ってあり、それぞれ「何でもやさんの山内さん!ピアノ・工作・演劇となんでもこなしちゃいます。」「アイデアいっぱい!工作名人金子さん!」「歌も教えてくれる 竹内さん!」と紹介されていた。下段には、私の作った『かいじゅうたちのいるところ』のジグソーパズルが飾られ、本の表紙とパズルに興じる子供たちの写真が3枚貼ってあり、写真から吹き出しで「子どもが大すきな『かいじゅうたちのいるところ』を手作りのパズルにしてくれました。」「みんな夢中!」と貼り出されていた。一番下には「みんなのイチオシ本」と書かれ、S君は『じごくのそうべえ』(田島 征彦 作・絵、 童心社)、Oさんは『コッケモーモー』(ジュリエット・ダラス=コンテ作 アリソン・バートレット絵 たなか あきこ訳 徳間書店)、Tさんは『リスクラブ―シマリスの飼い方』(大野瑞絵著 森脇章彦写真 誠文堂新光社)と3人の子どものイチオシ本のパズルを選ぶ表紙が飾られていた。
 公開授業は午後1時45分から2時30分までの45分間だが、その前に15分間のブックタイムという時間があり、他のクラスでは保護者などの読み語りが行われたようだったが、みどり学級では、その時間がパズルの時間として設定されていた。黒板の前に並べられた『かいじゅうたちのいるところ』の10種類のパズルの中から自分のやりたいものを選んで、それぞれがパズルに挑戦した。子どもたちは既に何度かやっているので、みんな10数分で完成したが、S君はなかなかうまくできずに絵本の該当ページを先生が開いて手を貸すことで何とか時間内に完パズルはむずかしい成したのだった。



 さていよいよ授業が始まり、まず、私たち緑図書館の職員4人が改めて紹介された。その後D先生が今日1日の予定を子どもたちに説明、前半は怪獣の出てくる本の読み語りで、最初はパズルでやった『かいじゅうたちのいるところ』を竹内が、次に『つきよのかいじゅう』を山内が、そして最後に『くいしんぼうのあおむしくん』を金子が順に読んでいった。その後メインの劇あそびの前にD先生がみんなの科白と太鼓などを使った足音の確認を行った。それから、それぞれの子どもが作ったやぎの帽子(最初の予定ではお面だっトロルの着ぐるみを着た先生たが、最終的には帽子になった)をかぶり、がらがらどんの歌を唄って劇が始まった。本番では八広図書館で作成した、毛糸でできたトロルの着ぐるみをT先生が着て本当にトロルらしくなった。私は歌のピアノの伴奏の他に小さいやぎのがらがらどんの音(ウッド・ブロック)、中くらいやぎのがらがらどんの音(小太鼓)、大きいやぎのがらがらどんの音(大太鼓)も担当した。トロルをみんなで退治した後でもう1度がらがらどんの歌を唄い無事に劇あそびは終了した。ヤギの帽子をかぶったりトロルの着ぐるみを着たりと練習の時よりも随分劇は盛り上がりを見せたのだった。
 その後まだ少し時間があったので、トロル役をやっていたT先生が『3びきのやぎのがらがらどん』を大きな積み木に腰掛けて読み始めた。T先生はそれぞれの役をやっていた子どもに語りかけるように話し、せりふの所では役をやった子どもの前に絵本を持っていってせりふを確認しながら読み進んでいった。その語り口と子どもたちの楽しそうな表情を見て、本当に今回の公開授業が成功裡に展開し、生徒や先生との絆がさらに深くなったことを実感した。そして大きいやぎのがらがらどんの場面にくると子どもたちが読んでいるT先生に詰め寄って押し倒し、さっきやった劇を再現して、しばしもみ合いとなったのだった。再び子どもたちが席に着き「ちょきん、ぱちん、すとん」で読み語りは終わったが、子どもたちの顔は皆満足げだった。劇遊びを通して1冊の絵本でこれだけ盛り上がることができ、本当にすばらしい授業になったと実感した。最後に図書館の職員が作った針金と毛糸で作った3びきのやぎのがらがらどんの小さな人形をプレゼントして公開授業は終了した。

中くらいのヤギがはしをわたりにやってきました 今回の公開授業がうまくいったのは、やはりみどり学級との3年間に及ぶ交流があったからだと痛感している。『つきよのかいじゅう』の好きなS君も3年生の4月にみどり学級に転入してきた当初はイスに座ることはおろかクラス内に居ることも稀で、T先生と一緒に校庭を歩き回っていた。その後やっと机に座れるようにはなったが、初めはお話には全く興味を示さず、分厚い『イミダス』の開いたページのある部分を指でなぞりながら1人で読んでいたのだった。紙芝居などに興味を持ち始めたのは、ほぼ半年を過ぎてからだったが、1つの転機は翌年3月に一緒に歌った歌「ふしぎなポケット」ではなかったかと思っている。ある時宅配の帰りに京葉道路の歩道でごねているS君に出会ったことがあった。丁度その時は授業が終わりヘルパーの方と学童保育クラブのある近くの児童館まで行くところだったのだが、行きたくないと道路に座り込んでいたのだった。見るに見かねて一緒に児童館に行こうということになったのだが、普通に歩けば10分くらいで着ける児童館まで、およそ40分かけて一緒に歩いて行った。その道々最後のもう一度絵本を読む一緒に「ふしぎなポケット」を歌いながら歩いたのだった。それこそ30回は歌ったと思うが、何かしらそうした小さなきっかけから、とてもよいコミュニケーションが取れることがある。みどり学級のように心身障害学級といっても1人1人が全く違った障害(というよりも、こだわりがあったり、コミュニケーションが取りにくかったりという苦手な部分)があり、それぞれが抱えている課題も個々に全く違っているので、できれば1人の子どもに1人の担当教員が常に付いている状態が作り出せないものかといつも感じさせられる。文部科学省が標榜している特別支援教育も何よりもきめの細かさが求められるだろう。そのS君も今年の3月には緑小学校を卒業して近くの中学のやはり特別支援学級に入学した。同じ4月に私もあずま図書館に異動になってしまったので、みどり学級には行けなくなってしまったが、あずま図書館の近くの小学校の特別支援学級に声をかけて是非同じようなサービスを続けて行けたらと思っている。


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