うか66号  トップページへ
     『本と人をつなぐ図書館員−障害のある人、赤ちゃんから高齢者まで』
       (読書工房 2008 定価1890円)を出版して

                           山内 薫(墨田区立あずま図書館)
 今年の1月中旬に表記のような本を読書工房という出版社から上梓しました。読書工房という出版社は「誰でも気軽に読書できる時代を切りひらくため、2004年に設立された出版社です。『ユニバーサルデザイン』や『読書サポート』関連の書籍などを出版・販売しています。」(同社ホームページの案内文より)現在までに20冊程の本を出版していますが、その中には『出版のユニバーサルデザインを考える』という出版UD研究会の講演内容を再編集した本もあり、岡田さんの「漢点字を知っていますか」や私の「公共図書館における読書サポートの実際」も載っています。また、読書工房を設立した成松一郎さんは以前、株式会社大活字という出版社におられ、拙著『あなたにもできる拡大写本入門−広げよう大きな字』(1998)を出版する際にお世話になった方です。昨年初めに私の単著を出版しないかというお話しがあり、今まであちこちに書いた文章を読んでいただきました。その中には、この『うか』に連載している「点字から識字までの距離」に書かせていただいたものも含まれていました。最終的には編集を担当して下さった読書工房の村上文さんが、全体を読みやすいものにして下さり、何とか出版にたどり着きました。私が今までに書いた文章は、そのほとんどが図書館員に読んでもらうためのもので、図書館とは余り縁のない一般の読者を対象とする本を作るために、相当手を入れてあります。全体は九つの章になっていますが、実はもう1章書いたものがありました。それは古典鍼灸を勉強している視覚障害のヘビーユーザーに関するものだったのですが、結局その原稿は没になりました。
 各章は次のような内容で構成されており、取り上げた内容は次のようなものです。
第1章 人はなぜ本を読むのか
 未就学のために漢字の読めない脳性麻痺の女性
第2章 手で読み、耳で見る
 生来全盲の男児
第3章 点字と拡大のはざまで
 点字と拡大文字の狭間にある弱視者
第4章 遠い記憶を呼びさますもの
 高齢者施設の入所者
第5章 楽しめる本に出会えるように
 授産施設の知的障害者
第6章 おはなしをからだで体験する子どもたち
 おはなし会に来る乳幼児
第7章 かいじゅうたちのいるところ
 身障学級(特別支援学級)の子どもたち
第8章 塀の中の写真集
 刑務所内での読書の実態
第9章 読むこと、そして書くこと
読むこと書くことを求めて図書館に来館する人
 例えば第8章の塀の中の写真集は、この「うか」の37号と38号に書いた千葉刑務所見学記が元になっています。
 装幀はプロの装幀家にお願いするということで、三村淳さんが担当して下さいました。三村さんは数多くの装幀を手がけている装幀家で、星野道夫の本などの装幀をなさっています。最初の書名として考えられていたのは『本を読む人々』というものでしたが、装幀家がもっと本の内容を直接表す書名の方がよいということで『本と人をつなぐ図書館員』という書名になったのです。また当初は各章の扉に写真を使う予定で、第1章なら利用者から頂いた手紙、第7章なら私の作成したジグソーパズル、第8章なら写真集の見返し等々用意したのですが、最終的に文字だけでいくということになりました。
 この本を読んでいただいて、図書館というのはこんなこともやっているのだということを知っていただけたらと思っています。外から見た図書館は、一見貸本屋さんと変わらず、単に本を借りるところと思われがちですが、帯にもありますように「すべての人に開かれている」図書館は読むことや来館することに困難を抱えている人たちにもサービスを提供する義務があると思っています。特に終章で取り上げた読むことや書くことの援助の問題は、地域に何故図書館という公的機関が必要なのかという問題を考えていただけたらと思って執筆しました。あらゆる場面で格差が広がっている現代社会で、情報の摂取そして発信を少しでも公平に保障していく機関が図書館ではないかと考えている次第です。また図書館員という仕事が非常に多岐にわたっており、やりがいのある仕事であることを知っていただき、図書館員になってみようかなと思う若い方が1人でもいてくれたら嬉しく思います。
 是非お近くの図書館でリクエストしていただき、読んでもらえたらと思っています。また、この本に関するご意見や疑問点などを、この「うか」の誌上で交わせれば嬉しい限りです。
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