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 点字公明記事から
 “言葉の世界”広がる漢点字

 以下は、公明党の点字機関誌「点字公明」11月号に掲載された記事を転載させていただくものです。点字誌で漢点字が取り上げられることは、極めて稀有なことです。我が国の視覚障害者の識字を考えるという意味では、このような試みは大変貴重なものです。心より御礼申し上げます。今後多方面のメディアにおかれましても、拘りを持たず、虚心に、ご検討・ご研究いただけることを、願って止みません。公明新聞様には転載をご快諾いただきましたことに、深く感謝申し上げます。末筆ではございますが、横浜市議の大滝先生には、大変お骨折りいただきました。ありがとうございました。

 漢字を点字で表す「漢点字」の普及に努めているボランティアグループ「横浜漢点字羽化(うか)の会」の代表、岡田健嗣(たけし)さんに、豊かな表現力を持った漢点字の魅力について聞きました。

漢字の意味や成り立ちを表す
 漢点字は、今からちょうど40年前に大阪府立盲学校教諭だった故・川上泰一(たいいち)さんが考案したものです。従来の仮名点字が1マス6点(縦3点、横2点)でできているのに対し、漢点字はこの6点の上に漢字の始まり(始点)と終わり(終点)を示す2点(漢点字符号)を加え、1マス8点(縦4点、横2点)で構成されています。
 漢点字の特徴は、仮名点字の体系を生かしつつも、仮名点字のように単語の「音」を表すのではなく、漢字の意味や成り立ち、構成を表している点です。例えば、「品物」の「しな」の場合、通常の仮名点字が「し」と「な」と表記するところを、漢点字は「くち」という漢字を3つ並べ、「しな」の漢字そのものを表します。
 また、漢字と同様、1つの漢点字に複数の読み(音訓)があり、目前の「もく」、目玉の「め」は同じ漢字なので1つの漢点字で表記されます。一方、「天国」「地獄」「極楽」の「ごく」は同音異義語なので、別々の漢点字で表記されることとなります。
 岡田さんは、「『かなしい』という表現一つを取っても、悲劇の『ひ』という漢字を使った『悲しい』と、哀愁の『あい』という漢字を使った『哀しい』では、そこに込められている筆者の思いも意味も違うでしょう。曖昧模糊(あいまいもこ)としていた言葉がすっきりと整理して理解できるようになった」と述べています。

日本語本来のリズムを味わえる
 漢点字には、いくつかのルールがあります。仮名点字の「き」に漢点字符号(始点と終点)を加えて漢点字とした場合、植木の「き」という漢字を表します。同様に、仮名点字の「た」に漢点字符号を加えたものは、田畑の「た」という漢字になります。
 漢点字には、こうした1マスで1つの漢字を表すものが57個あります。そして、それらが部首にもなり、最大3マスまで組み合わせることで、常用漢字(1945字)を含む6000以上の漢字を表します。併せて、ひらがなとカタカナの区別も付けられるようになります。
 漢点字によって視覚障害者も、仮名点字特有の「マスあけ」(分かち書き)から解放され、漢字・ひらがな・カタカナの交じった日本語本来のリズムを味わうことができるようになるのです。漢点字の具体例を別紙として最終ページに挟んでありますので試してみてください。

意味が分かれば発音も変わる
 岡田さんが漢点字と出合ったのは今から30年前の29歳の時でした。岡田さんは「『漢点字を習得して、何が変わったのか』とよく聞かれるが、何から何まで変わった。自分の名前を漢字で書きたいという願いも叶うことができた」と語っています。
 その後、通信教育で漢点字を学んだ岡田さんは、漢点字の魅力を多くの人に知ってもらおうと1996年、漢点字を学ぶメンバーらとボランティアグループ「横浜漢点字羽化の会」を発足。漢点字訳書の作成、学習会の開催、機関紙『うか』(無料)の隔月発行などに取り組んでいます。
 漢点字訳書の作成では、翌97年に漢和辞典『漢字源』の点字版全90巻をわずか半年余りで完成させたのをはじめ、毎年1、2冊ずつ製作を続けています。点字版『漢字源』は、横浜市議会公明党の大滝正雄(おおたき・まさお)議員が橋渡し役となって横浜市中央図書館に寄贈され、一般市民も閲覧できるようになっています。
 現在は、常用漢字の基本字典『常用字解』(白川静著)の漢点字訳に挑戦中で、前半部はすでに完成し同図書館に寄贈され、後半部も年明けに完成・寄贈される予定です。また、人名用漢字の基本字典『人名字解』(同)の編集も進めています。

 学習会は、横浜市健康福祉総合センター(同市中区)で隔月開催されています。参加は自由で、岡田さんの作ったテキストで漢字の意味や成り立ち、漢点字の書き方を1文字ずつ学んでいます。参加者の女性は「漢字の意味が分かれば発音も変わる。言葉の世界が広がっていく」と漢点字の奥深さを教えてくれました。

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