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     毎日新聞記事から

 漢字を表す「漢点字」を学ぶ人が増えています。


 
以下は、毎日新聞、六月十一日朝刊、家庭欄に掲載された記事です。有田浩子記者が、約半年に渡って取材して下さいました。

 ◇広がる言葉のイメージ 漢字の意味、成り立ちも表現
 漢点字とは漢字を表現するための点字体系で、今から40年前に大阪府立盲学校教諭の故川上泰一氏が考案。盲学校のカリキュラムにはなく、点字を利用する人の間でも十分知られていないが、東京と横浜で市民団体が学習会を開き、少しずつすそ野を広げている。

 「最初に勉強するのは品川の『品』です。口が三つで構成されています。白川静先生の常用字解を見ると『品』はお祈りに関係する字だということがわかります」。横浜漢点字羽化の会の岡田健嗣(たけし)代表(59)は月1回、東京都港区の障害保健福祉センターで学習会を開き、参加者に1文字ずつ漢字の意味と形、漢点字の書き方を指導している。視覚障害があり漢点字を学び始めて1年という竹井真紀子さん(28)は「漢字の形と意味が分かると、イメージが広がって面白い」と話す。

 日本の点字の歴史は明治時代に始まる。東京盲唖(もうあ)学校教諭だった石川倉次氏が創始者ルイ・ブライユの点字を基に「日本語にあったものが必要だ」と、現在普及している仮名点字を考案した。1マス縦3列、横2列の計6個の点を組み合わせ、仮名、数字、アルファベットなどを表す。この点字は単語の「音」だけを表すもので、漢字の成り立ちや意味は分からない。
 漢点字はこの6点の上に、漢字の始まりと終わりを表す二つの点を加え、縦4列横2列、計8個の点で構成している。入り組んだ漢字では全体の形を正確に表すことはできないが、「木」や「目」などの基本的な文字を1マスで表すルールを設け、それらを部首とした文字を最大3マスまでで表す。つまり、「品」ならば普通の点字では「し」と「な」だが、漢点字では「口」が三つ並んでいると表現する。漢点字を使えば、視覚障害があっても漢字とひらがなが交じった本来の日本語に近い形で文章を読むことができるという。

新しく漢点字を習い始めた人(右)に読み方を教
える東京羽化の会のメンバー=東京都港区で

 川上氏の漢点字は通信講座で広まった。そこで学んだ人たちを中心に、17年前に横浜漢点字羽化の会が発足。4年前には東京漢点字羽化の会ができた。会には視覚障害者だけでなくボランティアも加わっており、普通の文章を漢点字に変換するパソコンソフトを使い、テキストを作成する。東京羽化の会ではボランティアの中田利夫さん(60)が代表を務めている。
 視覚障害者は約30万人。そのうち点字利用者は約3万人と言われる。盲学校では漢字そのものについても積極的には教えていないのが現状といい、漢点字を知っているのは全国でも1000人に満たないとされる。岡田代表は「例えば『かなしい』と書くときに『悲しい』と書くか『哀しい』と書くのか。目が見えなくてもそのときに最もふさわしい文字を使いたいし、その文字を思い浮かべながら話をしたい。それが我々が漢点字を学ぶ原点」と話す。


 横浜の学習会は隔月の祝日(年内は7月20日、9月23日、11月23日)、横浜市中区の市健康福祉総合センターで。東京の学習会は毎月第3土曜日、東京都港区の障害保健福祉センターで。横浜の会では機関誌「うか」を発行しており、会で作成したテキストの販売もしている。問い合わせは岡田さん(03・3613・3160)。横浜の会はホームページ(http://ukanokai.web.infoseek.co.jp/)もある。【有田浩子】

 ◇固有名詞、同音異義語も正しく
 漢点字には覚えなければならないルールは多いが、言葉の世界が広がるメリットは大きい。例えば「き」という通常の点字の上に、漢字の始まり(左上)と終わり(右上)の二つの点を加えることで、漢字の「木」と読ませる。「き」を漢字で読む時の基本は最も多い「木」と決まっており、「気」は別の表記になる。これらを覚えることで「キニナルキ」を「気になる木」と理解することができる。
 また、通常の点字にはないひらがなとカタカナの区別もあり、固有名詞や同音異義語も正しく伝えられる。

(毎日新聞 2009年6月11日 東京朝刊)      

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